【連載】本音で語る愛車買取｜査定額に対する「情報の非対称性」

外資系消費財メーカー勤務を経て自動車メディア業界に転身。「IMPORTカーセンサー」編集デスクなどを歴任後、独自の着眼点から自動車にまつわるあれこれを論じる異色自動車コラムニストとして、大手メディア多数で活動中の伊達軍曹氏。そんな伊達氏に“本音”で「愛車買取」について語ってもらう連載企画。第4章は、査定額のもやもやについて語ります。

前回までのお話は、こちらから。
【連載】愛車買取の真実 ｜プロローグ
【連載】愛車買取の真実 ｜一括査定サービスの本質とは
【連載】本音で語る愛車買取 ｜買取業者の「心理と真理」

査定額に対する「情報の非対称性」

あなたが愛車を売却する際、なぜか知らねどいつだって納得いかない感じが残るのは「情報の非対称性」ゆえです。情報の非対称性というと難しげに聞こえますが、実際は簡単な話で、「売り手と買い手それぞれが持っている情報の量と精度に差がある状態のこと」です。

車の売却でいうと、買取業者は「その車がオートオークションでいくらぐらいの値が付くか？」という圧倒的な情報を持っています。もちろんその予想価格は「絶対」ではないのですが、車種と年式、色、走行距離、装備内容、修復歴の有無、内外装と機関のコンディションが把握できれば「おおむねの相場」はわかります。

しかし売却する側、つまりわれわれ一般ユーザーにとって、その車種のオートオークション相場は完全なブラックボックスです。

なかには何らかの手段でオークション会場に潜り込んだり、知り合いから部外秘のデータを入手してる一般ユーザーもいるかもしれません。しかし筆者の経験から言うと、外部のパンピーにそれを積極的に横流しする業界人はほとんどいません。オークションの価格データに接する資格を持っている関係者のうち99％以上は「それ」を絶対に公開しないものです。

なぜならば、それこそが彼ら／彼女らの利益の大きな源泉の一つだからです。

で、話を「情報の非対称性」に戻します。あなたが愛車を買取業者に査定してもらう際、向こうは「だいたいの正解」を知っています。「…この条件の個体だとオークションで100万円は付くはず。ならば、ウチの利益と、オークションで価格がイマイチ上がらなかった場合のリスクを考えて『70万円』で買い取るのが正解かな？」という感じで。

しかしあなたはオートオークションでの直近の相場など知りようがありません。自分の車と似ている中古車の店頭価格からなんとなくの推測はできるでしょうが、それが正解だという確信は持てないはず。圧倒的な「情報の非対称性」が、そこに生まれているわけです。

で、買取業者は内心で「70万円までなら出せるけど」と思いつつ、あなたに言うでしょう。

「キレイにお乗りいただいてますが、昨今の相場を考えますと『40万円』というのが、当社がご提示できるギリギリの線です」

これを書いているわたくしは今「神の視点」でやりとりを眺めていますから、「ちょ、お前、オークションで100万円付く車に対して40万円は欲張りすぎだろ！」と思うことができます。が、当事者であるあなたは生身の人間の視点で、しかもブラックボックス越しに物事を見ています。そのため「……予想より安いけど、まぁ現実はそんなもんなのかな。とほほ」などと思うほかないわけです。

この圧倒的なまでの「情報の非対称性」をなんとか打破し、できる限りの高値を勝ち取るために、われわれパンピーは何をどうすれば良いのでしょうか？　次回、具体的な方策を練ってみましょう。

押忍。